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映画『天気の子』を見て #天気の子

映画『天気の子』を映画館で3回ほど見たので、その感想をここに記しておきます。
普段は読んだ本や見た映画の感想はあまり書かないのですが、今回ばかりは形にしておくべきでしょう。

はじめに

この記事には『天気の子』のネタバレが含まれます。
まだ見ていない方は、今すぐ映画館へ向かってください。
できれば雨の日にTOHOシネマズ新宿で鑑賞することをオススメします。

『君の名は。』で舵を切った新海誠

新海作品の魅力は、なんといっても美しい風景描写や繊細な心象描写にあります。
一方で、『秒速5センチメートル』に代表されるようなある種鬱屈としたストーリー展開や、受け手によっては難解ともとれるテーマが描かれるのも特徴でした。
ところが『君の名は。』では一転、ストーリーは明快で万人受けするものになり、興行収入が250億円を超える大ヒット作品となりました。
これは、ジブリ映画が上位を占める邦画の興行収入ランキングにおいて、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』に次ぐ2位に君臨する快挙です。
それまで一部のアニメファンの中に留まっていた新海誠の名は、またたく間に日本中、果ては世界中にまで広まっていったのです。

『君の名は。』の流れを汲む『天気の子』

僕がはじめて『天気の子』の情報を知ったときは、キービジュアルが雲の上だったり、天気を操れる少女が出てきたりと、ファンタジー色が強そうな印象を抱きました。
新海作品でファンタジーといえば『星を追う子ども』が思い浮かびますが、その作風はそれまでとは趣が異なり、ファンの間でも賛否が分かれています。
『星を追う子ども』がそうであったように、『天気の子』も『君の名は。』から作風を大きく変えてくるのではないかという懸念がありました。
ところが蓋を開けてみれば、多少の非日常要素を交えつつも現代の日本を舞台にしたボーイミーツガールが描かれており、これはまぎれもなく『君の名は。』の系譜に連なる作品であると感じました。

圧倒的なリアリティで描かれる世界

『天気の子』では、物語の大半が東京の街で繰り広げられます。
新海作品ではしばしば新宿周辺が舞台になりますが、今回は帆高が思う都会の象徴として、初めて歌舞伎町が描かれています。
さらには、企業とのタイアップにより作品の中に実在する店や商品が多数登場します。
それらの存在が作品世界のリアリティを高めており、「100%の晴れ女」というファンタジー要素が現代日本の風景にうまく溶け込んでいました。

世界を救うか、彼女を救うか

物語終盤、東京が数十年に一度の大雨に見舞われるなか、「この雨が止んでほしいって思う?」という陽菜の問いに対し、帆高は「うん」と答えます。
それを受けた陽菜は自身が人柱になる運命であることを打ち明け、地上から姿を消してしまいます。
帆高は警察という圧倒的な正義に行く手を阻まれながらも、東京で出会った人々の力を借り、必死の思いで陽菜のもとにたどり着きます。
そして、次のようなセリフを口にするのです。

「もういいよ! 陽菜はもう、晴れ女なんかじゃない!」
「もう二度と晴れなくたっていい!」
「青空よりも、俺は陽菜がいい!」
「天気なんて--狂ったままでいいんだ!」

「世界を救うか、彼女を救うか」という究極の問いに対して、帆高は世界よりも陽菜を選んだのです。

正しさ至上主義に対するアンチテーゼ

帆高が陽菜を救ったことにより、東京ではその後も3年以上に渡って雨が降り続け、3分の1が水に沈む事態となりました。
直接手を下したわけではないにせよ、帆高と陽菜は「世界の形を決定的に変えてしまった」わけです。
新海監督はこの結末について、次のように語っています。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が典型ですけれど、正しい言葉以外は、一斉にたたかれる。それも社会的な正しさ、国際的な正しさ、ポリティカル・コレクトネスという言葉もありますが、「正しさ」だけが流通してしまっている。でも僕は、個人の願いとか個人の欲望とかって、時にはポリティカル・コレクトネスとか、最大多数の幸福とかとぶつかってしまうことがあると思う。でもそういうことが今、言えなくなってきています。常に監視されているような中、ルールから外れたことを言ってしまうと一斉にたたかれるし、常にたたく対象を探す祭りが起きているような雰囲気。そういうところへの反発やいらだちが私の中でずっとあり、この閉塞(へいそく)感やどうしようもなさを吹き飛ばしてくれる少年少女がほしいという気持ちがありました。

出典:「天気の子」新海監督と川村プロデューサーインタビュー・上 「バッドエンドの作品を作ったつもりは一度もない」 - 毎日新聞

功利主義的に考えれば、たった一人の犠牲によって多数の人間が救われるのであれば、それこそが「正しい」行動であるはずです。
しかしながら帆高はーー新海監督は、そういった「正しさ」よりも、個人の願いや欲望を優先したのです。
これは、現代にはびこる正しさ至上主義に対するアンチテーゼなのではないでしょうか。

今後の新海作品に期待すること

個人的には、新海監督のつくるタイムトラベルものが見てみたいです。
『天気の子』の作中に登場する雑誌『ムー』の中に「遂にコンタクト成功! 二千六十二年からの未来人」という記事があったので、可能性があるーーような気が、しなくも、なくもなくも、なくもなくもなくもないのです。
タイムトラベルがテーマの作品は多数存在しますが、『君の名は。』を単なる人格入れ替わりもので終わらせなかった新海監督であれば、きっと唯一無二の物語を描いてくれることでしょう。


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